2019.01.18法律相談室

判例に学ぶ!地盤紛争の傾向と対策

 

文=秋野卓生(あきの たくお)弁護士

 

法律事務所を開設した平成13年頃、建替え費用の賠償を求める裁判の中でも「建物の傾斜が地盤沈下によるものか否か」、「地盤沈下による建物変形が生じた場合、どのような補修方法が相当か」といった紛争など、建替えを要するか否か、個別の補修で対応可能かという争点に関する対応が多かったように思います。

 

これは、小規模建築物の場合、建築前に地盤調査を「正確に」実施する文化が希薄であった事によるものと推測できます。例えば、次のような判例があります。

判例1:造成地における建築の安全性確保義務違反で損害賠償に・・・

〈概要〉山腹の宅地造成で分譲された物件のうち、連続する4戸が集団提訴。各戸とも地下1階はガレージだが、それ以外の部分に盛土をして両者に基礎が跨る構造としたため、盛土部分が不同沈下した。

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京都地裁 平成12年10月16日判決

敷地が盛土地盤と知りながら、地盤調査を行わなかったばかりか、支持力の異なる構造基礎に跨って建物を建築したというのであるから、建築会社として負うべき建物の「安全性確保義務違反」であることは明らか。買主に対する工事費(地盤補強費用、沈下修正工事費用を含む)、一時移転費用、弁護士費用等の損害賠償義務を負うと判断。

 

 

現在は、地盤沈下事故の原因としてスウェーデン式サウンディング試験(SWS試験)といった安価な地盤調査方法の限界が指摘されることもあります。

判例2:SWS試験採用の是非が問題に・・・

〈概要〉原告が「建築基準法6条1項3号物件に該当する建築物」について、「『改訂版 建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針』Q&A集、改良地盤の設計及び品質管理における実務上のポイント、Ⅲ戸建て・小規模建築物編」によれば、SWS試験の採用は認められていないと主張した。

 

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東京地裁 平成27年8月26日 判決

3号建物について、法令上調査方法を変えなければならないとは読み取れない。土地及びその周辺の地盤状況や建物の構造特性から見て、SWS試験しか行わないことが不適切とも、標準貫入試験まで実施しなければならない状態であったともいえないと判示。

 

秋野弁護士のアドバイス

「地盤の中では何が起きているのか分からない。」これが地盤紛争の本質です。そのリスクを回避するための策を講じることを業界全体が再認識し、SWS試験といった簡易な試験で地盤調査をする場合も、例えば砂質地盤などで液状化が心配される場合は液状化調査も実施するなど、地盤リスクを回避した設計に最善を尽くしていただきたいと思います。

 

秋野弁護士

秋野卓生(あきの たくお)弁護士

弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。2017年度より、慶應義塾大学法科大学院教員に就任(担当科目:法曹倫理)。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。

 

 

 

 

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