2018.10.19ニッポンの地盤解説

平成30年北海道胆振東部地震 現地被害調査報告

このたびの北海道胆振東部地震で被災された皆様、ならびにご家族、ご関係者の皆様には謹んでお見舞いを申し上げます。被災地におかれましては、一日も早い復旧・復興を心よりお祈り申し上げます。

 

本調査は札幌市清田区清田地区と里塚地区の液状化や土砂流出に起因する地盤の陥没による被害に着目し、より適切な震災リスクの評価、地盤リスクへの対策提案を行うために実施しました。

 

地形・地質概要

清田地区、里塚地区は札幌市南部に位置し、震源から離れた距離にあるにも関わらず地震で大きな被害を受けました。

地図と土地条件図最終

左:国土地理院地図 色別標高図に加筆。黄色やオレンジ色部分は周囲より標高が高く、緑色部分は低くなっています。右:微地形区分図に加筆。(地盤サポートマップより)

 

地形

清田地区、里塚地区は支笏カルデラの北東側の火山山麓地に位置し、主に支笏火山の噴火による噴出物が堆積しています。火山灰の台地は雨水や川によって削られ、幾つもの谷筋が刻まれています。

両地区の住宅地は緩やかな斜面に位置し、平坦化するためには山側を「切土」し、切土で発生した火山灰土を用いて谷側を埋めて「盛土」した、切土または谷埋め盛土で造成されていると考えられます。

切盛造成地

斜面の切盛造成。高知大学 岡村土研HPより抜粋、加工。

 

地質

両地区周辺に分布する火山灰質土は多孔質です。そのため、地盤の締固めなどで過度に圧力をかけると粒子が壊れ、地盤の強度が低下することがあります。また、粒子が軽いために雨水や地下水に流されやすいという特徴があります。

 

顕微鏡写真

里塚地区で採取した土の電子顕微鏡写真

 

調査結果

清田地区、里塚地区の建物の被害状況を確認するために、被災建築物応急危険度判定※の結果を現地でマップ化しました。

※被災建築物応急危険度判定は、応急危険度判定士が①一見して危険かどうか、②隣接建築物・周辺地盤等及び構造躯体に関する危険度、③落下危険物・転倒危険物に関する危険度を総合判定し、危険、要注意、調査済みの3種類に区分するものです。

さらに、地盤状況を把握するために札幌市発行の造成履歴情報マップを参照したところ、両地区は造成履歴として記載されていない地域が多いことが分かりました。そこで、当社では詳細な切土・盛土分布図を独自に作成し、建物被害が大きかった地域と切土・盛土状況を比較しました。

 

清田地区

切土・盛土の境界付近や盛土の厚い地域に、建物被害が多く見受けられました。

里塚地区被害大地域

清田地区の切土・盛土分布図被害が大きかった地域

 

里塚地区

盛土が5m未満の薄い地域でも、建物被害が見受けられました。

清田地区被害大地域

里塚地区の切土・盛土分布図と被害が大きかった地域   ①-①´ 断面図は次に示します。

 

里塚地区では当社が地盤調査を行った地点があったため、谷を横断する断面図を作成して調査結果を確認しました。

①断面

里塚地区の谷筋 ①-①’  断面図と地盤調査 結果

 

調査は戸建住宅の地盤調査で一般的に使用されるスウェーデン式サウンディング試験(以下、SWS試験)と、より高精度に土の種類がわかるSDS試験を実施していました。SWS試験の結果から盛土部分は締め固められているものの、盛土下位は軟弱傾向であることが推察されます。また、SDS試験では盛土もその下位も火山灰質土が分布していると推察されます。

 

 

里塚地区の建物被害の原因考察

なぜ、盛土の薄い里塚地区にも建物被害が集中したのでしょうか?

里塚地区の建物被害は「液状化」や「土砂の流出」の影響を受けていると考えられます。

液状化は、①土質が砂である、②砂の締まり具合が緩く、③地下水がある状態の地盤に、地震の大きな揺れが加わることで発生します。

液状化条件

 

① 砂質の火山灰

調査地周辺には砂質の火山灰が分布しています。住宅の造成では谷筋を埋めた盛土部分も同様の砂質の火山灰質土が用いられ、地山も盛土も砂が主体と推察されます。

 

② 締まり具合の緩い軟弱層

SWS試験の結果から旧河道付近(盛土底付近)には水を多く含んだ軟弱層が分布しているものと推察されます。

国土交通省HPより観測所(清田)の降雨量のデータを見ますと、台風の降雨は災害を警戒するレベルである大雨警報(40mm/時間、80mm/3時間、150mm/日)には至りません。

降雨単独で災害を起こすレベルではありませんでしたが、8月中旬から震災前日まで台風の影響を受けて降雨量が多い日があり地盤はいつも以上に緩んでいたものと考えられます。

 

降水量

清田地区の降雨量。国土交通省HPに加筆。

 

③ 雨水を集めやすい谷埋め盛土

谷埋め盛土は降雨後の雨水を集めやすい地形です。地表面だけでなく、周辺斜面や谷筋の上流側からも集水します。地盤を構成する火山灰質土は細かく軽いために地下に水みちを作りやすく、水とともに土砂が流出する可能性があります。

土と水

地盤を構成する土質と集水地形

 

過去の地図から里塚地区の谷を流れていた川の位置を復元すると、建物被害が多い地域と一致しました。

 

地震

谷埋め盛土では地震が大きくなる要因が大きく3つあり、地震計で計測された震度より大きな揺れが生じる可能性があります。

  1. 軟弱地盤では地震波は増幅される
  2. 地震波の波長と盛土厚の関係で共振が生じることがある
  3. 谷間に地震のエネルギーが蓄積しやすい
谷埋め盛土

谷埋め盛土が大きく揺れやすくなる要因

 

 

前述のように里塚地区では液状化が発生しやすい条件(①砂質で、②緩い、③地下水位が高い)が揃っているところに、台風による降雨と規模の大きい地震の揺れが加わりました。

その結果、「液状化」や地下の「土砂の流出」が起こり、地面が陥没したために建物に被害が及んだものと考えられます。

P46.液状化原因考察jpg

 

今回の建物被害は複合要因で拡大したと考えられます。

・火山灰:軽くて流動しやすい。粉砕しやすい。

・降雨:地下水位が上昇し、地盤は緩い状態。

・谷埋め盛土:地下水が集まり、盛土底付近が流動化。

そこへ短周期の地震が発生し、薄い盛土に影響を与えたと考えられますが、今後の技術課題とします。

 

当社からの提言

液状化など地震時の地盤検討は現在明確な義務化はされていないため、液状化危険度マップなどによる情報収集が行われます。しかし、同マップは大まかな地形区分などを元に作成されているため、切土盛土が入り組む地形などではピンポイントでその宅地の危険度を把握することが困難な場合があります。したがって、建築前には地盤品質判定士など専門家に相談し、宅地ごとに液状化調査を実施するなど詳細な地盤調査を検討し、多角的な目線で地盤を視た上で建築計画をすることが重要と考えています。

 

当社には多くの地盤品質判定士がいますので、困ったことや分からないことがありましたらご相談ください。

 

被災地におかれましては、一日も早い復旧・復興を心よりお祈り申し上げます。

 

現地調査期間

概略調査:2018/09/17(月)~09/19(水) 詳細調査:2018/09/27(木)~09/28(金)

一部は(一社)全国住宅技術品質協会(※以下、「全住品」)と合同調査

 

調査エリア

概査:札幌市(屯田通り、月寒東、美しが丘)、北広島市、厚真町、安平町、むかわ町

詳査:札幌市清田区(清田地区、里塚地区)

 

調査メンバー

菅野 安男、武智耕太郎、内山 雅紀、中村 嘉秀、大類 幸雄、庄田 憲之、八島 優一

 

住まいづくりをささえる住宅会社様向けWEBマガジンには、匠総合法律事務所の秋野弁護士による法律相談室のコーナーがあります。

 

土砂災害や集中豪雨など関する訴訟についての記事もございます。ぜひご覧ください。

https://www.j-shield.co.jp/jhsmedia/legal_consultation_2/

https://www.j-shield.co.jp/jhsmedia/legal-counseling_1/

 

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JHS LIBRARY 編集部

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