2018.10.19ニッポンの地盤解説

平成30年7月豪雨と地盤の関係

度重なる自然災害により被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

今回は西日本の広範囲に甚大な被害をもたらした『平成307月豪雨』と瀬戸内海沿岸地域の地盤の関係について解説します。

倉敷市真備町

倉敷市真備町

文 = 吉井 孝文(ジャパンホームシールド)

2018 76日午後から深夜にかけて、西日本(岐阜県~鹿児島県)一帯に未曾有の大雨が降りました。そして、719日の時点で死者223人という大災害になりました。気象庁はこの豪雨を「平成307月豪雨」と命名し、政府も激甚災害に指定する考えを表明しました。

 

今回の豪雨災害をニュース等で知った私は、西日本の広い範囲で豪雨となったという点で不安になりました。西日本は全体として、その地形的特徴が実は豪雨に対し脆弱なものであるからです。

 

今回は、西日本のうち、瀬戸内海沿岸地域の地盤と豪雨の関係について解説します。

 

地質の特徴「風化花崗岩」とは?

瀬戸内海沿岸地域には、「花崗岩」という種類の岩石でできた山がたくさん見られます。この花崗岩は、白亜紀~新第三紀初頭(13000万~6500 万年前)に地下深くでマグマが固まったものが、長い時間をかけて地上に露出したものと考えられています。

花崗岩

露出する花崗岩

花崗岩の表面が風化し、その場に残置された砂状の土を「真砂土(まさど)」と呼びます。ニュース等でも風化花崗岩や真砂土のことはよく取り上げられているので、ご存じの方も多いでしょう。

瀬戸内海沿岸地域では、住宅地を造成する際に、ベージュ色の真砂土がよく利用されますので、地元の人たちにも馴染みのある土だと思います。

 

ただし、真砂土がたくさん使えるということは、水を含むともろくなる風化花崗岩が多く分布しているということです。つまり、豪雨にあえばたちまち崩れるような危険な場所も多いということになります。

地盤サポートマップ

「地盤サポートマップ」花崗岩の分布(ピンク色部分)出典:産業技術総合研究所シームレス地質図

 

近年の豪雨災害では、真砂土が利用された斜面造成地での被害が見受けられます。よって、構造物をつくる際は、十分な安全性を保てるような造成を確実に行うことが重要といえるでしょう。

 

地形の特徴「リニアメント」とは?

下記は山口県岩国市から岡山県倉敷市までを映した衛星写真ですが、よく見ると、引っ掻き傷のような白い線がたくさん見えませんか?

写真2衛星写真

中国地方の衛星写真※1

こうした衛星写真や地形図上で見られる引っ掻き傷のような線状模様は「リニアメント」と呼ばれています。成因は断層や地質の食い違いなど色々ありますが、日本列島が海洋プレートと大陸プレートのぶつかり合う場所に位置することから、これらプレートの押し合う力によって発生した「しわ」や「ヒビ割れ」と考えるとわかりやすいでしょう。

 

リニアメントは日本中に存在しますが、ここまではっきり見られるのは瀬戸内海沿岸地域の大きな特徴といえます。

 

では、なぜここまではっきりとリニアメントが写っているのかというと、大きく2つの理由があります。

まず1つ目は、これらリニアメントは深い谷と沖積低地でできており、その谷底には大きな樹木が少ないため、山地とは色彩が異なり、白っぽく写るのです。

2つ目は、日本の大きな平野では、地形は土地の低い側から、沖積低地→洪積台地→丘陵→山地、という順に変化しますが、瀬戸内海沿岸地域では、中間の洪積台地・丘陵がほとんどありません。低地からいきなり山地が立ちあがるような恰好になります。そのため、極端な高低差が生まれ、谷の形がはっきりするのです。

 

なぜリニアメント谷に市街地が?

瀬戸内海沿岸地域には、前述のリニアメント谷か山地かのどちらかしか無いとなると、人々が暮らせる場所は、必然的に平坦な沖積低地、すなわちリニアメント谷の底面になります。次の写真はリニアメントの中だけに集落や水田が広がる様子が見られる航空写真です。

写真3 衛星写真集落・水田

谷の中に集落・水田が広がる(白い点は雲)

このように、瀬戸内海沿岸地域では可住地が極端に限られるという点が、市街地分布の大きな制約条件となっています。

※近年では山地斜面を大規模造成して宅地化をしている場合もあります。

 

大規模な土砂災害が起きてしまうのはなぜ?

前述のように地形地質、市街地分布に制約のある瀬戸内海沿岸地域に豪雨が発生すると、災害となる可能性が高くなります。豪雨は他の場所でも頻発していますが、特にこの地域で土砂災害の被害が目立つ理由として、次のような流れが考えられます。

①大雨をもたらす湿った空気は、太平洋から九州と四国の間の豊後水道を抜けてやってきます。

⑥ニッポンの地盤 図2

瀬戸内海沿岸に流れ込む空気とリニアメント谷

②豊後水道を瀬戸内海へ入って行ったところに、ちょうど広島市などの大きな街があります。これらの街もリニアメント谷の中にあり、人口増加に合わせて、リニアメント谷を伝って内陸へ市街が伸びています。

③この地域ではリニアメントの走る方向と湿った空気の進行方向がほぼ同じになります。雨水のはけ口は、リニアメント谷が瀬戸内海に達する場所しかありません。

④さらに、近年名前が知られるようになったバックビルディング現象※で降った大量の雨はリニアメント谷の中に集中してしまいます。

※ 積乱雲が風上で繰り返し発生して、風下で激しい雨が降り続ける現象

⑥ニッポンの地盤 図3

バックビルディング現象とリニアメント谷※2

⑤大量の雨が風化花崗岩の山肌を削ります。

こうして発生した土石流や洪水は、リニアメント谷の中に集中している市街地に襲いかかってしまうのです。

 

近年の日本では、集中豪雨が頻発しており、かつ豪雨を受けた土地との関係でその災害の様相は多様化しています。

 

今回は、「平成307月豪雨」で被害の大きかった瀬戸内海沿岸地域の地盤(地形地質)と豪雨の関係をお話ししましたが、みなさんがお住まいの地域ごとに固有の災害誘因としての地盤条件は存在します。お住まいの地域の地盤に関心を持って頂き、防災意識を高めて頂ければと思います。

 

吉井さん横向

吉井孝文(よしい たかふみ)

吉井孝文(よしい たかふみ)

技術士(応用理学部門:地質)

地盤品質判定士

2006年ジャパンホームシールド株式会社に入社、日本全国の住宅地盤の安全性評価業務に携わる。2011年より同社地盤技術研究所研究員、現在に至る。

趣味:気になる地形をバイクで見に行くこと。バイオリン。

 

 

参考資料

1:国土地理院 地理院地図HP

2: 産業経済新聞社編「西日本豪雨 平成307月」p.61を参考に作成

 

併せて、こちらの記事も是非ご覧ください。

平成30年北海道胆振東部地震 現地被害調査報告

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